ああ偉大なるLT計画、ウーファー密閉箱製作部門について
ウーファーを購入しました。前述のとおりseasのL22RN4X/Pです。
フレームがかなり細いことに気が付きます。手に持った感じにしても、さほど重量を感じません(2.2kgもあるのに)。スパイダーの目が非常に粗く、向こうが透けて見えるのが印象的です。公称Xmax=21mmを保障するかのように、ボイスコイルは破廉恥なほどオーバーハングしています。
軽く特性を測ってみました。まずは周波数特性です。4.0kHzのピークはseasが公開しているものに比べて10dB以上低く観察されています。1kHzまで使えるとのことですが、500Hzまでが限度ではないでしょうか。
次いでインピーダンス特性について。また、T/Sパラメータの一部についてメーカー発表の値と実測値とを比較してみます。
| nominal | measured |
Fs (Hz) | 23
| 28.77 |
Vas (ltrs) | 72 | 44.02 |
Qts | 0.32 | 0.366 |
Qms | 3.62 | 4.750 |
Qes | 0.35 | 0.396 |
Le (mH) | 3.5 | 2.515(@1kHz) |
DCR (ohms) | 6.1 | 7.6 |
ここで得られた特性値を元に密閉箱の容量を決定します。Hi-Fi Speaker Design Calculatorによれば、24.5リットルの密閉箱でQtcを0.577(Besselレスポンス)にできるようです。この場合、150Hzあたりからレベルの低下が見られ始め、20Hzでは-15dBとなるようです。
エンクロージャーは高さ90cm、幅29cm、奥行き30cm。バッフル前面が12°スラントになるようにしてあります。ウーファーは密閉箱、ミッドとツイーターはzaph 2wayで使っていたものを流用して、ダイポール(後面開放)として用います(背面にはグラスウール1畳分を押し込む)。後日ミッドとハイをグレードアップさせたいときは、サブバッフルごと交換するようなかたちになります。
そして製作。途中引越しなどがあって進行に遅れがありましたが、塗装などの仕上げを抜きに5ヶ月で作り終えています。
ここで使っているハタガネも自作だったりします。
ウーファーを納める密閉箱の内部の様子。防湿のために油性ニスで塗装したあと、ダンプ材としてカーペットを適宜貼り付けています。同じような処置は、国内ではANさんが、国外ではTony Geeがやってますね。
今回初めて試行してみましたが、けっこう効きます。今後とも採用予定。こののち吸音材としてエステルウール100gとグラスウール1畳分を入れてあります。
アクティブクロスオーバーで分けるのはウーファーとミッド・ツイーターで、そのミッドとツイーターは、パッシブのクロスオーバーネットワークで分けます。これも前作から流用。
・・・オカルティックDIYerからの移行期に作ったためか、麻紐巻きまくってますね。アッテネート用の無誘導巻線抵抗にまで可燃物を巻くのは良くない。燃えてくれといわんばかりです。
これはクロスオーバー周波数が2.5kHzのネットワークです。図中、インダクタに付記されている抵抗値はDCRを示しています。ミッドのLPFに使われているインダクタのみ鉄心コア(17AWG)で、他は空芯(19AWG)。コンデンサはSolenのFast Capだったような。
-24dB/octをターゲットスロープとしていたのですが、ミッドのLPFはちょっと緩いですね。ツイーターのHPFは普通にリンクウィッツ・ライリー4次で、ミッドのLPFは1次+シリーズノッチです。
ドライバごとに個別に相対音圧レベルを測ってみたのが上図。ミッドとツイーターに関してはマイク位置はツイーター軸上(2.8V/1m)、ウーファーのみ近接条件で観察しています。ツイーターの特性が妙にリップルってますが反射波の影響ですね。スピーカーとマイクの間に布団を敷きまくるとそれなりに軽減できます。低域側について、100Hzあたりのレベルを基準とすると、20Hzで-30dBですか。
こちらはミッドとツイーターを同時に測定したときの結果。クロスオーバー周波数付近(2.5kHz)の位相は特に乱れてないように見えますが、2kHz弱のディップはなんなんでしょう。反射波だと嬉しいんですが。
さらにウーファーを加えるとこうなる。ウーファーは逆相です。正相だときれーに500Hzでヌルります。後日アクティブクロスオーバーに追加するLinkwitz transformが反転出力なので、ちょうどいいかなと思います。
反射波防止のために敷いてあった布団を取っ払った後なので2kHz弱のディップが酷くなっているように見えるけど、それプラス、どーもミッドバスの素性っぽい・・・ 早めにミッド交換したいですね。
Linkwitz transformなにするものぞ
一言でいえば低域補正用の前置イコライザです。ただし、単に数dB持ち上げるだけのイコライザではなく、ウーファーの低域減衰特性を鑑みた上でそれをきっちり補正するかたちのシェルビングフィルタとなっています。Linkwitz transformによって、現行の密閉箱がピークを持とうが臨界制動になっていようが、見かけ上希望する低域減衰特性に仕上げることができます。
Linkwitz先生の偉いところは、特定の箱入りウーファーの特性が記載できれば半ば自動的に補正回路が導出できるような計算方法を思いついたという点ではないでしょうか。現在のところ、記載の煩雑さなどの問題から適用可能なシステムは密閉箱のみとなっていますが、近い将来、バックロードホーン専用transformer、バスレフ専用transformerも報告されるかもしれません。
広く知られているように、密閉箱の低域減衰特性は単純な(2次)ハイパスフィルタで記載されます。つまり、箱入りウーファーの低域減衰特性をフィルタのQとカットオフ周波数として記載できるわけです。この2点さえ分かれば、そのウーファーが何Hzで何dB低下するのかが把握できます。密閉箱に関して言えば、この2点とはQtcとfscです。
これらは箱入りウーファーのインピーダンス特性を観察することによって得られます。
黒線はフリーエア下での特性、赤線は密閉箱に入れたときの特性を示しています。密閉箱に入れたウーファーについて冦ass法でT/Sパラメータを求めると、Qts = 0.657、fs = 45.45Hzと算出されました(data not shown)。それぞれをQtcおよびfscと読み替えます。・・・Qtcは0.577を狙ったんですけどね・・・。
Linkwitz transformの回路計算Excelシートには、有名なものとしてTrue AudioのものとFRD Consortiumのものがあります。のちのち紹介する機会があるかと思いますが、両者で求められた回路定数はなぜか異なってしまいます。製作者は同一人物なのに。ひとまず今回は前者を利用しました。
図中左上側の欄に観察されたQtcおよびfscを入力し、その下に希望する補正後の特性を入力します。今回はQtc = 0.707、fsc = 15Hzの密閉箱と同等の特性になるように、また、DCゲインが20dBを超えないように指定しました(赤線)。このとき、補正後の低域減衰特性としては30Hzまでフラットとなる予定です(緑線)。密閉箱のクセに。・・・密閉箱に入れたウーファーのfsが15Hzって、そんなウーファーはフリーエア下でfs = 10Hzくらいなんじゃないでしょうか。正気の沙汰じゃありませんし、そんなもの手に入りません。
ついで、回路中のC2の値を決めます。入手しやすいコンデンサの容量として、私は0.022uFとしました。現行密閉箱のQtcとfscおよびC2の値を決めると、他の回路定数が自動的に求められます。
上図を元に、所定の抵抗値とコンデンサの容量値を並列・直列おりまぜて実現しようとした結果、以下のような回路になりました(クリックすると別画面で原寸で表示します)。2回路入りのOPA2134を使って、出力バッファもつけてあります。
アクティブクロスオーバーに乗っけました。LPFの後ろに接続してあります。回路の規模はあんまり大きくないのになぜか苦しみましたが、それは単に私が下手だというだけのことです。
部品代は1,000円くらいでした。fsc=15Hzのウーファーを用意するのに必要な金額に比べたら微々たるもんです。
理研RMG(金足1W)が見えますが気にしないで下さい。高級パーツ志向だったころの遺産です。
LPFとLinkwitz transform自体の特性はこうなります。振幅f特に関して、100Hzあたりからブーストがかかり15Hzで+15dBという感じは、上のExcelシートで示した予想特性(赤線)とだいたい一致しています。10Hz以下で減衰しているのは、アクティブクロスオーバーの入力部にカットオフ周波数7Hzのハイパスフィルタ(DCブロック用途)が入っているからです。
次いで補正後のウーファーの振幅f特について。下図では補正後を青線として示しています。
・・・ええ、そうなんです。30Hzまでフラットという目標は達成できなかったのです。補正前と同様、100Hzあたりから緩やかに減衰するような特性となっております。これはですねえ、補正前の低域減衰特性が50Hz以下の領域では-20dB/octと、密閉箱の理論的な低域減衰特性である-12dB/octからずれていることが原因の1つだと思います。それ以外にもあるでしょうけど、特定できません。
でもまあ、20Hzで-10dBですから十分です。これで良しとします。
上図は近接条件で測定したときの群遅延特性。10msecを超えるのが35Hzなので、十分すぎるほど良い特性だと思います。一般的に言って、Speaker Workshopで測ったものよりARTAで測ったものの方がいい結果になります。
こちらは2次、3次、および4次以上の高調波歪みをARTA同梱のStepsで求めたもの(入力1.0ワット相当)。近接条件で測定しているので外来ノイズの影響はごく小さいものと考えられますが、500Hz以上の部分は信用できません。1.0kHz以上で高い歪み率を示していますが、この領域はLPFでぶった切った後なので問題ないです。
stepped sineを刺激信号としているため、zaphがやるようなものとは異なる結果となっているはずです。・・・ついでにいうと、高調波歪み特性についてもSpeaker WorkshopよりStepsの方が良い結果になりますし、サウンドカードとパワーアンプとマイクプリアンプとマイクの歪みも、この結果に表れています。
全高調波歪みが1%を超えるのは40Hz以下の領域ってところでしょうか。80ドル弱のウーファーであることを考えるとそこそこ良い結果だと思います。この歪み率であの群遅延特性ですから、重くて軽い超低域マンセーなわたくしには十分です。
しつこいくらい申し上げておきますが、群遅延特性と全高調波歪み特性について、ここであげたものは他の方のデータと付き合わせて考えるのは難しいと思います。あんまり信用できません。本来なら、Linkwitz transform無しの状態のものも合わせて掲載するべきなのですが、結線外して測りなおすのは今はちょっと面倒臭い・・・。すいません。いずれやろうと思います。
Linkwitz transformの良さは、ドライバと箱に金をかけなくても低域レンジの拡大が図れるという点にあります。素性は密閉箱ですから他の方式に比べて過渡特性も良いでしょう。ですが、いくつかの制約があります。Xmaxとパワーハンドリングです。
理論どおり-12dB/octで低域が減衰する密閉箱を例にとります。100Hzでのレベルに比べて50Hzでのレベルが-12dBになっている密閉箱とします。この密閉箱を対象にLinkwitz transformで補正し、50Hzまでフラットに仕上げるとしましょう。このとき、50Hzにおける振動板の振幅(excursion)は補正前の4倍、必要となるパワーは補正前の16倍と言われています。
公称Xmaxがワンウェイ10.5mmであるL22RN4X/Pを選択したのはそのためです。Fostexのドライバは軒並みアウツです(Xmax小さすぎ)。上で高調波歪みを観察しているのは、excursionが大きいほど高調波歪みが悪化するという話を聞いたからです。
あとは大出力のパワーアンプを用意すればいいわけですが、それはまた別のお話。
・・・ミッドとツイーターの交換は5年後くらいにします。
とりあえずはやく仕上げをやりたい。MDFの素っ気無い風貌のままでは楽しく聴けるものも楽しくありません。
-----追記-----
その後早々とミッドとツイーターは手持ちのものに交換され、ネットワークも3次楕円関数フィルタになりました。
その検討の概要についてはこちらをどうぞ。
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